KAWASE BIIKI

東ヨーロッパ通貨の成長と慢心

為替市場は不安定な環境です。リスクオンが二日とつづかず、新興国通貨やここまで買われてきた通貨に、調整売りが出やすい状況となっています。これからしばらくは、米国長期金利低下を発端とした、米国ドルの動きが鍵を握ることなりそうです。

 

 

 

そういった環境の中で、大きな動きを予感させるのが東ヨーロッパの通貨となります。

地理学上は東ヨーロッパに分類して良いのかよく分かりませんが、ユーロ圏から見て東にある国の通貨という意味で、

 

・ポーランドズロチ(PLN)

・ハンガリーフォリント(HUF)

・チェココルナ(CZK)

・ルーマニアレイ(RON)

 

を東ヨーロッパ通貨とさせていただきます。

これらの国々の特徴としては、それぞれ非資源国の工業国であり、低価格日用品や部品などが主な輸出品となります。輸出先としてはユーロ圏が過半数を占める他、ロシア・中国との関係が強い国もあります。

工業化開始はリーマンショック前で、インフラが整ったリーマンショック後に貿易量が急増、貿易量はここ10年で2倍(ユーロベース)まで伸びていて、現在も増加中のようです。海外企業の誘致に積極的に動いているため、日系企業も多く進出していて、ユーロ圏向けの商品の製造をしています。

 

こうした成長を背景に、通貨は堅調に推移。リーマンショック後に訪れた、バーナンキショック(米国テーパーリング開始)、人民元ショック、資源価格の急落といった危機を微変動で切抜けるなど、その他の新興国通貨とは一線を画す動きとなっていました。

 

 

しかし、ここまで順調に成長してきた東ヨーロッパ通貨なのですが、ここに来てその成長にも陰りが見えつつあります。

 

一番の問題になっている点は、人件費の高騰です。

人口が4カ国の合計で8000万人程度のため、急速な工業化により労働者の確保が難かしくなりました。新興国には珍しく、若年者人口が少ないと言うことも問題に拍車をかけている他、社会主義時代の名残からか、労働者の権利主張が強いことも、賃金が引き上がりやすい要因となっています。

最低賃金は、2005年頃と比較し、2.5倍程(ユーロベース)まで高騰していて、輸出競争力の点からの優位性が失われつつあります。

 

この賃金の上昇(消費の活発化)により、貿易指標が悪化。ポーランドは貿易収支・経常収支共に赤字に転落、その他の国でも今年に入り、指標の悪化が顕著になっています。この動きは来年以降も続きそうです。

さらに、この経常収支の悪化を埋めるために海外からの投資を増やしたことで、対外債務が過去最高水準まで増加しています。

こういった経常収支の赤字を、海外からの投資の促進で穴埋めをするというのは、工業発展した新興国によく見られる構図ですが、隣国トルコを見ても分かるとおり、長期的には通貨暴落の引き金になる可能性があります。

東ヨーロッパの通貨は過渡期を迎えているようです。

 

 

 

東ヨーロッパ通貨はリーマンショック前に長期で大幅に上昇しましたが、リーマンショック時には大暴落したという、非常にリスキーな通貨です。ここ10年の安定は、奇跡といって良いことなのかもしれません。

下落が始まったら、忙しくなる通貨です。ポートフォリオに組み入れたい場合には、是非是非早めの検討をお勧めしています。

 

| コラム | 12:17 | comments(0) | trackbacks(0) |

金融市場は生贄を必要としている

2018年も残り1ヶ月となりました。今年は下落する市場が出始めるなど、相場全体が転換点にきていると感じられる年でした。マクロでの資産の流れが変化し、金融市場全体に影響を与えているようです。

 

 

リーマンショック後、各国の中央銀行は、市場から国債を買うなどの量的緩和・金融緩和政策を進めてきました。金融市場に巨額の資金が流れたことで、金融市場は急激に資産価値を高めてきていました。

しかし2015年頃から、景気の回復を受け、中央銀行は、金融政策の変更を迫れれます。国債の買い入れを終了し、バランスシートの縮小、政策金利の上昇と、金融市場に提供してきた資金を引き揚げはじめました。

 

またここにきて、金融資産の買い手側にも変化がみられます。リーマンショック後の金融市場では、中国企業をはじめとした、新興国からの資金が存在感を増していましたが、最近は資金の流入が減少しています。

調達金利が上昇しているため、新たな投資資金が手に入りづらくなったり、債務の増大から、手元の資金を確保するために、資金の売却を迫られるようなシチュエーションが増えているのだと想像させされます。

 

このように金融市場の周辺の資金の流れは変化していて、このような市場環境ですと、資産価格は下落しやすくなります。それぞれの商品は信用力が弱い順に値を落とすことになり、

 

・仮想通貨バブルの崩壊

・アルゼンチンやトルコといった新興国債券の暴落

・中国株式市場の下落

・オセアニアや北欧の不動産価格の下落

・米国株式市場の下落

 

といったイベントを引き起こすこととなりました。

 

足下で起こっている原油価格の下落も、需給面での材料はありますが、下落幅が大きくなった背景は、投機筋のポジション調整という極めて金融的なものと思われます。

 

つまりは、投資資金の流れが変化したことで、投資資金の流入が少なくなり、いままで高値で維持されていた価格が維持できなくなり、それぞれの市場で価格を下落させる必要が出てきたということになります。

 

そしてさらに重要なのは、こういった資金の流れの変化が今後も続いていくということではないでしょうか。

年末にはECBが債権の買い入れプログラムを終了させます。10月に買い入れ額を縮小した時には、大きな影響は出ませんでしたが、規模を考えますと、影響が全くでないとは考えにくいものです。ECBは来年に利上げの噂もあり、緊縮的な金融政策をさらに進めていくようです。

そしてFRBの金融政策の変更相場も、市場全体への影響は大きいものでしょう。12月の利上げはほぼ確実でしょうが、来年も利上げが続くのか、それとも終了させるのか、こういった動きは当然注目する必要がありそうです。

 

 

世界経済がグローバル化する中で、金融市場はボーダーレスで繋がり、世界中の資金が金融市場に流れてきています。私たちが認識すべきなのは、全ての投資資金は元をたどれば、同じようなものであり、一つの場所で大きな動きがあれば、全ての市場に影響が出るという事実でしょう。

市場では大きな資金の変化が出ています。どの資金がどの市場のどの商品に影響を与えるのか、マクロの資金の流れをもう一度確かめる時期にきていると思われます。

 

 

| コラム | 12:46 | comments(0) | trackbacks(0) |

ユーロは2019年の主役になれるのか

ロイターにてアナリストの方々が、来年のユーロ相場を予想していたので紹介します。

ユーロに関しましては、私も注目していますし、twitterでの反応を見ても、個人投資家からの注目が大きくなっているのがわかります。2019年は非常に注目される通貨になりそうです。

 

 

ユーロの不人気はいつまで続くか  

植野大作 三菱UFJモルガン・スタンレー証券

 

四面楚歌のユーロ相場、来年1.10ドル割れも 

唐鎌大輔 みずほ銀行

 

植野さんは年後半のユーロ高を予想。一方唐鎌さんは現状維持から下落と予想していまして、意見が真っ二つに分かれています。

二人の意見が分かれたところは、ECBの金融政策の予想の部分です。植野さんは現在の金融政策は異例のため、来年は現在のガイダンス通り正常化が進み、利上げが行われる可能性が高いとしています。一方の唐鎌さんは、現在のユーロ圏の経済状態では利上げは難しく(すべきでないという意見)、現状のガイダンスは変更されると予想しています。

 

私個人としましては、もともとは植野さんの意見に近いものでしたが、唐鎌さんのコラムを見て、このような可能性もあるなと少し考え方を修正しました。経済指標などを確認してみても、ユーロ圏の経済状況は、悪くはないけれど、足元不安定になっているのは確かで、見方によって、良いとも悪いともどちらとも取れるという、非常に微妙なものになってる感じはあります。

量的緩和による国債の買い入れは年末に終了しますが、その後の金融政策の正常化の段階としての利上げは、影響が大きくなることもあり、実施の判断は難しくなりそうです。

 

| コラム | 08:39 | comments(0) | trackbacks(0) |

中国人民元と金融緩和

為替市場は米国ドルが強い状態が続いています。この水準ですとさすがに割高感は否めませんが、米国への資金の流れが続いていることもあり、下落の気配は感じません。一方のユーロは下落傾向を見せ、割安感が一層強まってきています。

そういった環境の中、日々注目を集めているのが中国人民元になります。足下の水準は妥当性のある水準と思われますが、先行きに関しましては、やや不安な面が増えてきました。

 

 

中国経済は、GDP成長率が年6%台と、拡大を維持していますが、拡大幅は減少傾向を示しています。特に貿易面ではそうした傾向が顕著に現れていて、貿易収支は黒字を維持していますが年々悪化、直近の数値は2015年と比較すると半分ぐらいの黒字幅となっています。それに伴い経常収支も悪化、2018年1Qには経常赤字に陥るなど、中国の貿易環境は数年前から一変しています。

要因としましては、経済成長による消費の拡大(輸入の増加)、人件費高騰による競争力の低下、資源価格の高騰などが挙げられます。足下で原油価格が下落しているため、一旦の回復は見込めるのですが、中期的には消費のさらなる拡大が予想されるため、貿易黒字の維持も苦しくなると思われます。また、ここにきて米中関係の悪化が浮上し、中国製品の輸入禁止や大規模な関税は、当然中国の輸出を減少させるため、さらなる貿易指標の悪化が懸念されています。

 

こういった経済状況を受け、中国政府および、中央銀行は、金融緩和を進めています。銀行の預金準備率の引き下げや、貸出金利の規制を行い、さらには企業債務の直接買い入れや、政策金利の引き下げも検討中のようです。金融緩和の目的としては、一般的には「債務の増加に苦しむ企業の救済」となります。これは、足下の経済や雇用を支えることには効果があるのですが、不良債権を抱えるいわゆる「ゾンビ企業」の生き残りを認めてしまうため、長期的には成長を阻害する効果があります。例えば、中国には技術を持った企業は沢山あるのですが、そういった企業に優秀な人材が集まりにくくなることが考えられます。

 

さらに、こういった金融緩和にはもう一つ懸念があります。それは通貨人民元への影響です。金融緩和が進むことで、通貨の流通量が増えることが予想され、これは人民元にとっては下落材料になります。名目の値で下落するため、1米国ドル=7人民元という水準を保ちたい中国政府にとっては頭の痛い問題です。

 

このように中国政府は、金融緩和を進めたいのだけれど、為替水準は維持したいというジレンマを抱えることとなっています。普通に考えれば、面子を忘れ為替水準を切り下げれば良いのですが、これが中国政府としてなかなか受け入れがたいことのようです。当然、米国やトランプ大統領との関係もありそうです。

 

しかし実際に為替水準の維持が可能かと言いますと、これは相当に厳しいと考えられます。外貨準備高がそれ程潤沢ではなく、2015年の為替水準維持が失敗したことを踏まえましても、ここから先に大規模な為替介入を行うことは難しいと思われます。またた海外への資金逃避は現状抑えられていますが、もし政策金利が低下するようですと、逃避の動きはふたたび活発化するでしょう。さらにすでに書いてきたように、貿易の改善は見込めないため、そう考えますと、長期での人民元の価格維持は、ほぼ不可能と言って良いのではないでしょうか。

 

 

中国人民元の水準は足下では決して割高ではありません。しかし、長期で見た場合にこれほど不安材料のある通貨も珍しいものです。いつ下落が始まるかの予想は難しいですが、来年辺り、金融緩和が強まった段階で下落が始まる可能性もあり、日々の動きには細心の注意を払いたいものであります。

 

| コラム | 07:02 | comments(0) | trackbacks(0) |

ポスト・トルコリラとしてのルーマニアレイ

トルコリラの急落から早2ヶ月が経過しました。下落幅が大きかったこともあり、一生忘れられない思い出になった方も多いのではないでしょうか。私はこの業界にながくいますが、やはりこういったダイナミックな動きは興奮を覚える物です。そしてこうした通貨の急落を見つけることこそが、為替長期投資の意義であり、醍醐味であると感じています。

 

 

 

ということで、次のトルコリラを探す意味を込めまして、今後急落する可能性が高い通貨を紹介したいと思います。

今回見つけてきたのは、東ヨーロッパ・ルーマニアの通貨レウ(RON・複数形はレイ。この先は複数形のレイで表記を統一)です。

 

ルーマニア自体の知名度はそこそこありますが、その通貨を取引している方はきわめて稀だと思います。それでも金融庁登録のFX業者のなかで取引できる業者が複数(ドルストレート・クロスユーロが中心)あり、十分に検討価値がある通貨だと思っています。

 

ルーマニアレイの下落予想の理由としましては、トルコリラとの相似点があります。

トルコリラが下落した原因は、

 

トルコ

・実力   100

・生活水準 150

 

と実力に比べ生活水準が大幅に高くなっていたためと言うことが出来ます。先日の下落はこのギャップが修正された動き(このギャップを対外債務で埋めていたが、債券市場の流動性が減少したため、強制的に修正された。)ということになります。

 

これをルーマニアに当てはめてみますと、

 

ルーマニア

・実力    80

・生活水準 110

 

位のイメージで良いと思います。実力と生活水準のギャップはトルコほどではないですが、実力以上の生活をしているという点では同様の構図です。そしてルーマニアの問題点はこの先にあります。

実は、ルーマニアは、この状況にもかかわらず、最低賃金を大幅に引き上げているのです。2016年1月に230ユーロ程度だった最低賃金は、現在400ユーロを超えていて、2年半で1.7倍以上になっています。さらに、来年1月には7.9%の上昇が決まっています。この間に、生産性(実力)も向上しているため、すべてが悪い上昇というわけではないのですが、上昇幅が大きすぎることが問題になりそうです。つまり、実力の上昇幅よりも生活水準が改善幅が大きいため、実力と生活水準のギャップが広がってしまうということになります。

 

このような動きにより、経済指標が悪化しています。対外債務が増加、貿易収支・経常収支が悪化・インフレ率が上昇中と為替にとっての悪材料が並びます。これらの値には足下の賃金上昇は織り込まれてはいないと考えられ、今後ももう一段の悪化がが予想されます。

ルーマニアはリーマンショックが起こった2008年に経常収支が対GDP比−11.8%という、考えられないほど悪かった時期があり、通貨が35%程下落(対ユーロ)したという実績があります。今回は経済収支がそこまで悪化するとは考えていませんが、ユーロが割安水準を維持していることもあり、ユーロが急上昇した場合などに、大幅に下落する可能性は高いと思っています。

 

 

 

ルーマニアの経済指標は悪化していますが、まだ、トルコほどではなく、多少の余裕があるように見えます。また、かなりマイナーな通貨と言うこともあり、投機的な動きで大きく売られることもないと考えています。そうなりますと、実際に下落するのは、来年か再来年、はたまたもっと先という相当長期な話になりそうです。

今回紹介したルーマニアレイの他にも、大幅な下落が予想される通貨はあると思われます。今後も、機会がありましたら紹介していきたいと考えています。

 

| コラム | 13:41 | comments(0) | trackbacks(0) |

ニュージーランドドルの取捨選択

為替市場はややリスクオフの展開となっています。特に材料がない中で日本円が弱めの全面高といったところでしょうか。昨日の新興国通貨の下落のようなこともあり、気の抜けない状況です。

そんな中、オセアニア通貨が弱い動きになっています。特に、ニュージーランドドルは中長期的に下値を切り下げる動きで、今後の動きが注目されます。

 

 

ニュージーランドドルがなぜ下落しているのかと言いますと、アメリカFRBのバランスシート縮小をはじめとする、主要国の金融政策の緊縮化があります。ニュージーランドは債務水準が高く、対外債務比率が多いため、債券市場が緊縮化するような環境では為替が下落しやすくなります。また経常収支の赤字幅も大きくなっていて、輸出産業で稼ぐことが出来ていないのも悪材料です。

 

高い対外債務水準と大幅な経常赤字といいますと、トルコを思い出す方もいるかと思いますが、ニュージーランドの水準はトルコほどは悪くありません。また、債務の多くは民間債務のため、国債格付けが高く、低インフレ・自国通貨建てということもあり、一気に資金が抜けることはないかと思われます。

 

それでは、今後のニュージーランドドルの値動きがどうなるのかと言いますと、私は下落すると予想しています。

理由はいくつかあるのですが、ひとつはアメリカの短期・長期金利の上昇です。ニュージーランドはキャリートレードやイールドハンティングといった金利を狙う投資家の投資対象です。世界的な低金利の中では、高国債格付けを持つニュージーランドの金利は需要が高かったのですが、このところのアメリカの利上げが続く中で、ニュージーランドの1.75%という政策金利は魅力が薄れていくと考えられます。

二つ目の理由は、原油価格の上昇です。ニュージーランドは、原油の輸入割合が高い国の一つで、原油価格の上昇は為替にとっては、マイナス材料になります。このところの原油高は確実に貿易収支・経常収支の悪化を招くと思われます。

さらに、中国経済もニュージーランドドルに影響を与える可能性がありそうです。ニュージーランドは、中国との直接の貿易額が大きい他、隣国オーストラリアを通じて、経済で深い関係を持っています。中国の経常収支の黒字幅が縮小する中で、特に貿易面でどのような変化を見せるのか注意していきたいところです。

 

このように悪材料が並んでいるのですが、実際にニュージーランドドルを取引する際には、上昇する可能性もあります。実は、投機筋のIMM通貨先物のニュージーランドドルのポジションは、過去最高水準の売り越しとなっています。つまり、ニュージーランドドルはすでに売られていることになります。ニュージーランドドルはこのIMMポジションとの関連はそれ程高いものではないのですが、結構大きめな量で、売りポジションが積み上がっているため、この巻き戻しは常に警戒する必要はありそうです。

 

 

 

各国の金融政策が動く中で、債券市場の動きや金利が、為替の動きを予想する上での重要度を増しています。こういった物は短期ではなく、より長い期間の値動きに影響を与えるため、目先の動きとらわれず、じっくりと幅広く、見定めていくことが、ただしい予想をする鍵となりそうです。ニュージーランドドルだけではなく、新興国通貨を予想する場合にも、主要国の金融政策は影響が大きいため、常に情報収集を怠らないようにしたいものです。

 

| コラム | 14:22 | comments(0) | trackbacks(0) |

2018年8月10日のトルコリラ下落を考察する

8月10日にトルコリラが大きく下落しました。

この理由を考察します。

 

今回の下落に関しては、

問1 「なぜ、トルコリラは下落しているのか。」

問2 「なぜ、2018年はトルコリラの下落幅が大きいのか。」

問3 「なぜ、2018年8月10日にトルコリラが大きく下落したのか。」

の三つに分けて解説していきます。

 

本題に入る前に「通貨と物価」の関係についておさらいしておきます。

「通貨は、物価が上昇すると下落し、逆に物価が下落すると、通貨が上昇する」という関係があります。これは、(需給が変化せず)物価が2倍になった場合に、通貨側から見た場合、通貨の価値が半分になっていると考えれば分かり易いと思います。

 

このように通貨は、自然と価値が変動してしまうため、その価値を保存することが困難になります。そのため、物価変動分の利息を付与することによって通貨の価値の保持を可能にしています。つまり、インフレ率10%の通貨に10%の利息を付与することで価値を保存させるということです。これは、「インフレにより通貨そのものの価値が10%下落するけれど、利息を10%付与することで、その穴埋めをしてくれますよ。」という意味です。

 

このような仕組みが備わっているため、為替取引という視点で見た場合では、

「高金利通貨も低金利通貨も存在せず、全ての通貨は損得のない対等な関係である」

ということになります。これは為替の基本のひとつになります。

 

超長期(数十年)単位でトルコリラの下落が続いているというのは、トルコは長年にわたりインフレ率が高い状態が続いているからです。ただし、このところのトルコリラは、このインフレ率を調整したレートで見た場合でも、価格の下落が続いています。これは、為替に物価以外の価格変動要因が関わっているためです。今回はその辺りを解説していきたいと思います。

 

 

 

それでは本題に入ります。

まず、一般的な資金の流れを単純化して、貿易と投資の2種類とし、以下のように分けます。

 

★貿易

・入ってくる資金   嵳⊇弌

・出ていく資金   ◆嵳入」

 

★投資

・入ってくる資金  「海外からの投資」

・出ていく資金   ぁ岾こ阿悗諒嶌僉

 

トルコの場合、貿易赤字国のため、 嵳⊇弌弑盂曚茲蠅癲↓◆嵳入」金額の方が大きく、その貿易赤字を穴埋めしてきたのが、「海外からの投資」になっています。この海外からの投資は、トルコ国債や企業の社債、為替市場(FX)からの流入などがあります。

「海外からの投資」は基本的には債務のため、いつかは返さなければならないお金です。現状ではこの債務が増え、「入ってくる資金」と「出ていく資金」がつり合っているため、実質的にはトルコに資金が入っていない状態になっています。(2009年頃から投資資金は飽和していると推測されます)

 

トルコの貿易を見ていきます。

トルコは輸出産業は、自動車・自動車部品・機械機器・貴金属・衣料品・鉄鋼・食品などで、輸出先はEU圏内が5割を占めます。

また、サービス業として、観光による外貨獲得の割合が高いのが特徴になっています。

 

輸出量は伸びているのですが、伸び悩んでいます。

その理由としましては、

1.トルコ国内での人件費の高騰。

2.ECBの量的緩和に伴うユーロ安。

3.ハンガリー・チェコ・スロバキアといった東ヨーロッパ圏の国々との価格競争の激化。

4.2014年頃からの、テロやクーデター未遂による治安イメージ悪化からの観光収入の大幅減少。

等があります。

 

一方の輸入品は、機械機器・鉱物燃料・電気機器・自動車・自動車部品・鉄鋼・プラスチック製品などとなっています。

こちらは増加しています。

輸入が増加した背景には、

1.人口の増加(特に若い消費者の人口)。

2.エネルギー資源価格の高騰。

3.政府の経済政策による消費の活性化。

等が考えられます。

 

特に「3」については、GDP成長率がプラスに働くため、為替の上昇を連想させますが、実際には輸入が増加するため、為替を下落させる効果があります。「経済が成長することは、為替にとって上昇材料ではない。」ということは覚えておく必要があるでしょう。

 

トルコの貿易で興味深いのは、輸出は(米国ドルベースでも)増加しているにも関わらず、輸入がより速く増加したため、貿易赤字が増加しているという点です。

この辺りについては、トルコの国内政治にも関わるため難しいのですが、ちょっと「国民に贅沢させすぎてしまったな」位のイメージで良いと思います。

 

つまりトルコは、 嵳⊇弌廚伸び悩み、◆嵳入」が増加、「海外からの投資」はすでに飽和状態で、利払いの増加からぁ岾こ阿悗諒嶌僉廚増加している、という全方位で通貨が下落しやすい状態であったということです。特にトルコの場合は、貿易の赤字幅がかなり大きく、海外からの投資資金で賄いきれなくなるのは明らかでした。トルコリラの下落は必然と言うことになります。

 

ここまでが、問1 の「なぜトルコリラは下落しているのか。」の答えになります。

 

 

 

それでは、問2 「なぜ2018年はトルコリラの下落幅が大きいのか。」ですが、

これは、主要国中央銀行の金融政策が緊縮化したことによって、金融市場に入ってくる資金が減少しているためとなります。

 

2017以降の主要国中央銀行の金融政策を見てみますと、

 

・米国FRB 政策金利の引き上げ6回(計1.5%)

       バランスシートの縮小(3ヶ月ごとに縮小幅を拡大)

・欧州ECB 債券の買い入れ額の縮小      

・日本日銀  債券の買い入れ額の縮小

       長期金利目標の柔軟化

 

と金融政策が緊縮化しています。

リーマンショック以降、主要国の中央銀行は金融政策を緩和的にし、金融市場に資金を供給してきましたが、この供給量が減少したり、引き揚げられているといった格好です。米国FRBのバランスシート縮小だけをみても、現在までに2000億米国ドル(22兆円)以上の資金が金融市場から引き揚げられていて、影響は大きくなっています。

 

金融市場に流入する資金が減少するため、当然金融商品の価格は下落しやすくなります。

特にこういった状態では、信用力の低い金融商品から順に、買い手がいなくなるため、トルコへの投資、トルコ側から見た場合の「海外からの投資」が大きく減少することとなりました。トルコリラはこの動きを受け、下げ幅を広げることとなりました。

アルゼンチン国債や仮想通貨が、昨年後半辺りからさえない動きになっているのも、同じ理由になります。

 

 

 

そして、問3 「なぜ2018年8月10日にトルコリラが大きく下落したのか。」といいますと、

これは、

・日本のお盆休み前で、欧州のバカンスシーズンで流動性が乏しかった。

・欧州金融機関におけるトルコへの融資の問題のニュースが流れた。

・米国の経済制裁。

と悪い条件が重なったためです。

 

ただ、実際のニュースは何でも良かったのだと思います。今まで解説してきたような理由のため、トルコリラは大きな下落を必要としていました、理由はいくらでも付けられたのです。現実では流動性が低くなるタイミングで下落するという、自然な動きになったということになります。

 

 

 

このように、トルコリラが下落した要因は複合的なものでした。一番影響が大きかったのは、主要国の金融政策の変更だと思われますが、本質はトルコの産業の弱さであり、海外からの資金に依存した経済システムが限界を迎えたのだと思われます。

貿易の強さが確立していない新興国通貨が、主要国の金融政策の緊縮化から下落するというのは、1990年代にアジア通貨危機がありますが、今回も同様のケースとみています。海外からの資金に依存した新興工業国が陥りやすい罠に、トルコも見事に嵌ってしまったのだと思われます。

 

今後のトルコリラの動きになりますが、今回急激な動きを見せたため、しばらくは不安定な動きが続くのではないかと思われます。しかし、そういった動きは意味のあるものではありません。

トルコリラにはまだ割高感が残っており、さらに主要国の金融政策の緊縮化はこれからも加速するため、中期的に下落すると予想します。トルコの輸出競争力の回復には、もう一段階・二段階の人件費の下落が必要になります。トルコリラが安定した動きを見せるのは少し先の話になりそうです。

 

 

 

その他の通貨の最新予想は→→ 「為替予想2018年後半」

 

ご意見ご感想質問等を、コメント欄またはtwitterでお待ちしております。是非ご利用ください。

 

 

| コラム | 09:18 | comments(0) | trackbacks(0) |
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