KAWASE BIIKI

2018年8月10日のトルコリラ下落を考察する

8月10日にトルコリラが大きく下落しました。

この理由を考察します。

 

今回の下落に関しては、

問1 「なぜ、トルコリラは下落しているのか。」

問2 「なぜ、2018年はトルコリラの下落幅が大きいのか。」

問3 「なぜ、2018年8月10日にトルコリラが大きく下落したのか。」

の三つに分けて解説していきます。

 

本題に入る前に「通貨と物価」の関係についておさらいしておきます。

「通貨は、物価が上昇すると下落し、逆に物価が下落すると、通貨が上昇する」という関係があります。これは、(需給が変化せず)物価が2倍になった場合に、通貨側から見た場合、通貨の価値が半分になっていると考えれば分かり易いと思います。

 

このように通貨は、自然と価値が変動してしまうため、その価値を保存することが困難になります。そのため、物価変動分の利息を付与することによって通貨の価値の保持を可能にしています。つまり、インフレ率10%の通貨に10%の利息を付与することで価値を保存させるということです。これは、「インフレにより通貨そのものの価値が10%下落するけれど、利息を10%付与することで、その穴埋めをしてくれますよ。」という意味です。

 

このような仕組みが備わっているため、為替取引という視点で見た場合では、

「高金利通貨も低金利通貨も存在せず、全ての通貨は損得のない対等な関係である」

ということになります。これは為替の基本のひとつになります。

 

超長期(数十年)単位でトルコリラの下落が続いているというのは、トルコは長年にわたりインフレ率が高い状態が続いているからです。ただし、このところのトルコリラは、このインフレ率を調整したレートで見た場合でも、価格の下落が続いています。これは、為替に物価以外の価格変動要因が関わっているためです。今回はその辺りを解説していきたいと思います。

 

 

 

それでは本題に入ります。

まず、一般的な資金の流れを単純化して、貿易と投資の2種類とし、以下のように分けます。

 

★貿易

・入ってくる資金   嵳⊇弌

・出ていく資金   ◆嵳入」

 

★投資

・入ってくる資金  「海外からの投資」

・出ていく資金   ぁ岾こ阿悗諒嶌僉

 

トルコの場合、貿易赤字国のため、 嵳⊇弌弑盂曚茲蠅癲↓◆嵳入」金額の方が大きく、その貿易赤字を穴埋めしてきたのが、「海外からの投資」になっています。この海外からの投資は、トルコ国債や企業の社債、為替市場(FX)からの流入などがあります。

「海外からの投資」は基本的には債務のため、いつかは返さなければならないお金です。現状ではこの債務が増え、「入ってくる資金」と「出ていく資金」がつり合っているため、実質的にはトルコに資金が入っていない状態になっています。(2009年頃から投資資金は飽和していると推測されます)

 

トルコの貿易を見ていきます。

トルコは輸出産業は、自動車・自動車部品・機械機器・貴金属・衣料品・鉄鋼・食品などで、輸出先はEU圏内が5割を占めます。

また、サービス業として、観光による外貨獲得の割合が高いのが特徴になっています。

 

輸出量は伸びているのですが、伸び悩んでいます。

その理由としましては、

1.トルコ国内での人件費の高騰。

2.ECBの量的緩和に伴うユーロ安。

3.ハンガリー・チェコ・スロバキアといった東ヨーロッパ圏の国々との価格競争の激化。

4.2014年頃からの、テロやクーデター未遂による治安イメージ悪化からの観光収入の大幅減少。

等があります。

 

一方の輸入品は、機械機器・鉱物燃料・電気機器・自動車・自動車部品・鉄鋼・プラスチック製品などとなっています。

こちらは増加しています。

輸入が増加した背景には、

1.人口の増加(特に若い消費者の人口)。

2.エネルギー資源価格の高騰。

3.政府の経済政策による消費の活性化。

等が考えられます。

 

特に「3」については、GDP成長率がプラスに働くため、為替の上昇を連想させますが、実際には輸入が増加するため、為替を下落させる効果があります。「経済が成長することは、為替にとって上昇材料ではない。」ということは覚えておく必要があるでしょう。

 

トルコの貿易で興味深いのは、輸出は(米国ドルベースでも)増加しているにも関わらず、輸入がより速く増加したため、貿易赤字が増加しているという点です。

この辺りについては、トルコの国内政治にも関わるため難しいのですが、ちょっと「国民に贅沢させすぎてしまったな」位のイメージで良いと思います。

 

つまりトルコは、 嵳⊇弌廚伸び悩み、◆嵳入」が増加、「海外からの投資」はすでに飽和状態で、利払いの増加からぁ岾こ阿悗諒嶌僉廚増加している、という全方位で通貨が下落しやすい状態であったということです。特にトルコの場合は、貿易の赤字幅がかなり大きく、海外からの投資資金で賄いきれなくなるのは明らかでした。トルコリラの下落は必然と言うことになります。

 

ここまでが、問1 の「なぜトルコリラは下落しているのか。」の答えになります。

 

 

 

それでは、問2 「なぜ2018年はトルコリラの下落幅が大きいのか。」ですが、

これは、主要国中央銀行の金融政策が緊縮化したことによって、金融市場に入ってくる資金が減少しているためとなります。

 

2017以降の主要国中央銀行の金融政策を見てみますと、

 

・米国FRB 政策金利の引き上げ6回(計1.5%)

       バランスシートの縮小(3ヶ月ごとに縮小幅を拡大)

・欧州ECB 債券の買い入れ額の縮小      

・日本日銀  債券の買い入れ額の縮小

       長期金利目標の柔軟化

 

と金融政策が緊縮化しています。

リーマンショック以降、主要国の中央銀行は金融政策を緩和的にし、金融市場に資金を供給してきましたが、この供給量が減少したり、引き揚げられているといった格好です。米国FRBのバランスシート縮小だけをみても、現在までに2000億米国ドル(22兆円)以上の資金が金融市場から引き揚げられていて、影響は大きくなっています。

 

金融市場に流入する資金が減少するため、当然金融商品の価格は下落しやすくなります。

特にこういった状態では、信用力の低い金融商品から順に、買い手がいなくなるため、トルコへの投資、トルコ側から見た場合の「海外からの投資」が大きく減少することとなりました。トルコリラはこの動きを受け、下げ幅を広げることとなりました。

アルゼンチン国債や仮想通貨が、昨年後半辺りからさえない動きになっているのも、同じ理由になります。

 

 

 

そして、問3 「なぜ2018年8月10日にトルコリラが大きく下落したのか。」といいますと、

これは、

・日本のお盆休み前で、欧州のバカンスシーズンで流動性が乏しかった。

・欧州金融機関におけるトルコへの融資の問題のニュースが流れた。

・米国の経済制裁。

と悪い条件が重なったためです。

 

ただ、実際のニュースは何でも良かったのだと思います。今まで解説してきたような理由のため、トルコリラは大きな下落を必要としていました、理由はいくらでも付けられたのです。現実では流動性が低くなるタイミングで下落するという、自然な動きになったということになります。

 

 

 

このように、トルコリラが下落した要因は複合的なものでした。一番影響が大きかったのは、主要国の金融政策の変更だと思われますが、本質はトルコの産業の弱さであり、海外からの資金に依存した経済システムが限界を迎えたのだと思われます。

貿易の強さが確立していない新興国通貨が、主要国の金融政策の緊縮化から下落するというのは、1990年代にアジア通貨危機がありますが、今回も同様のケースとみています。海外からの資金に依存した新興工業国が陥りやすい罠に、トルコも見事に嵌ってしまったのだと思われます。

 

今後のトルコリラの動きになりますが、今回急激な動きを見せたため、しばらくは不安定な動きが続くのではないかと思われます。しかし、そういった動きは意味のあるものではありません。

トルコリラにはまだ割高感が残っており、さらに主要国の金融政策の緊縮化はこれからも加速するため、中期的に下落すると予想します。トルコの輸出競争力の回復には、もう一段階・二段階の人件費の下落が必要になります。トルコリラが安定した動きを見せるのは少し先の話になりそうです。

 

 

 

その他の通貨の最新予想は→→ 「為替予想2018年後半」

 

ご意見ご感想質問等を、コメント欄またはtwitterでお待ちしております。是非ご利用ください。

 

 

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