KAWASE BIIKI

実質実効為替レートの回帰性に関するよくある勘違い

実質実効為替レートの回帰性についての話です。

 

実質実効為替レートとは、通貨ペアではなく、各通貨それぞれの強さを表す「実効レート」と、通貨の変動に影響する物価の変動を考慮した為替レートである「実質レート」を組み合わせたもので、各通貨の本質的な強さを直接表す値になります。

FXでは、実質実効為替レートは、「(実質金利が0の場合の)スワップポイントを加味した、為替の値動き」を表すため、この数値が上昇した通貨の買いポジションを持っていれば利益がでて、この数値が下落した通貨の買いポジションを持っていた場合は、損失を被るということになります。

 

 

この実質実効為替レートには、「一方向に動いた場合に、元の値に戻ろうとする性質(回帰性)」が備わっているのですが、理論上平均回帰ではない(元に戻ろうとするのだけれど、平均値に近づくわけではない)という大変厄介な性質になっていて、そのため取り扱いには非常に神経を使う必要があります。この「実質実効為替レートの回帰性」については著名な為替アナリストでも平均回帰すると勘違いしている場合が多々見られ、「実質実効為替レートが長期平均から大きく乖離しているため、元に戻ると予想します。」など間違った解説される場合があり注意が必要となっています

 

 

それでは、実質実効為替レートがどのように動いているのか見ていきます。

 

一般に通貨が変動する要因としては、

1 需給の変化(実貿易を除く、通貨の需給・主に投資資金)

2 貿易の強さの変化(実貿易)

3 物価の変化

 

の三つがありますが、このうち「3物価の変化」は実質実効為替レートにすでに織り込まれているため、実質実効為替レートの変動要因としましては、「1 需給の変化」「2 貿易の強さの変化」の二つになります。

 

「1需給の変化」とは、例えば投資家が、その国の金融資産(株式・債券・為替)を買ったり、売ったりすることです。これは買われる時期と、売られる時期があるため、周期的に変化します。つまり、これが実質実効為替レートの回帰性の要因になるものです。この働きだけを考えますと、(金融資産の売り買いは合計すると0になるため)実質実効為替レートは平均回帰をすることになります。

それでは、なぜ実質実効為替レートが平均回帰しないかといいますと、それは「2貿易の強さの変化」が実質実効レートに影響を与えるためです。

「2貿易の強さの変化」は、その国の貿易の強さがどう変わったかを示しているのですが、こちらは回帰性を持ちません。貿易の強さが変化、産業が進化し、貿易力が強化された場合は、実質実効為替レートは上昇することになり、産業が弱体化した場合は、実質実効為替レートは下落することになります。

つまり、為替の変化が「1需給の変化」によってなされた場合は、回帰性が働くため、為替は元に戻ろうとするのですが、為替の変化が「2貿易の強さの変化」によってなされた場合は、回帰性は働かず、通貨は元に戻らないということになるのです。

 

実質実効レートの動きの多くは「1需給の変化」が主な要因ですが、資源国通貨などでは、資源価格の急変動により「2貿易の強さの変化」が為替を動かす場合が見られます。また長期で為替を見た場合では、「1需給の変化」は循環するため「0」と考えられ、「2貿易の強さの変化」が累積して為替レートに影響を与えることになります。

 

実際の実質実効為替レートで見ていきますと、例えば、中国人民元の実質実効為替レートは、2006年頃から上昇し、現在の値は、1994年からの平均値と比べ20%以上高い水準ですが、貿易収支・経常収支共に黒字で、現行の中国人民元の値は割高ではありません。これは、この期間に中国の産業が急激に発展し、「貿易の強さ」が強化されたためと考えられます。

逆にトルコリラでは、現在の実質実効為替レートは、1994年からの平均値と比較し5%以上下落した値ですが、これはトルコリラが割安であることを示していません。貿易収支・経常収支共に大幅な赤字で、トルコリラの現行水準は、かなりの割高であると考えられます。特にここ数年は、実質実効レートが大幅に下落している(トルコリラを買いポジションで保有していると損失を被る)状態ですが、貿易指標の赤字幅が拡大していて、この期間に「貿易の強さ」が、大幅に悪化していると推測することができます。

 

 

 

| コラム | 04:54 | comments(0) | trackbacks(0) |

アメリカ個人貯蓄率の低下とその影響

為替市場は、少しずつボラティリティが出てきた状態。日本円から見ると一方的が動きに見えますが、アメリカ主導な様子です。2月は弱めな動きになったユーロも、ようやく底を見た感じでしょうか。暦も3月になり、ここから新しい相場が始まりそうな雰囲気です。

 

世界の株価が急下落するなど、リスクの高まりに関心が向けられる中、最近少し気になるのが、アメリカの貯蓄率の低下です。世界の民間・個人債務が増加する中で、その対岸にある貯蓄はいくつかの国で減少しています。

 

★各国の個人貯蓄率の推移

2014〜15年の値

(アバウト)

直近の値
・アメリカ 5%台 2.4%
・イギリス 9%台 5.5%
・カナダ  4%台 2.6%
・オーストラリア 8%台

3.2%

 

※ 日本は増加、ユーロ圏は微減

 

データ元 「Trading Economics」

 

 

アメリカの個人貯蓄率の現在の値は、リーマンショックの最低値で、リーマンショック前を含めましても、ほぼ最低水準です。個人の債務がこれ以上増えにくい状態で、貯蓄が減少しているとなれば、将来的には消費が減少することにつながりそうです。

アメリカの個人消費は足下で堅調ですが、自動車の販売台数が減少しています。これはローンが組みにくくなっていることと関係しています。そうなりますと、この後はクレジットカード(リボ払い)を使用して買い物をしそうな、耐久消費財や高額商品の販売が鈍くなり、その後に一般消費財に影響を与えることになると考えられます。(住宅はいわずもがな)

 

また貯蓄率の低下は、株式市場にも影響を与えます。米国の各株式指数と個人貯蓄率には逆相関の関係があることが知られていて、これ以上個人貯蓄率が低下出来ないような現在の水準は、株価指数が天井に近いことを表していると推測されます。(貯蓄率はまだ減少の余地はなくはないですが・・・。)これは個人が株式を購入する余力が無くなっているためだと、または金利が上昇する中で、株式から預貯金への資産シフトが増えるためだと考えられます。もし、米国の株式市場が天井を付けるようですと、ここまでの相場環境が一変するとこになりそうです。

 

 

昨年2017年は為替市場は動きが少なく、世界経済も株式市場もちょうど良い状況と言われていました。そんな中で起こっていたのが、世界的な債務の増加と個人貯蓄率の減少になります。せっかく相場環境が怪しくなってきた時期ですので、こういったマクロ指標がどういったことを意味しているのかを、もう一度考える時期にきているのだと思われます。

 

 

 

 

| コラム | 13:16 | comments(0) | trackbacks(0) |

カナダ経済がちょっと危なくなってきたかもしれない

2018年の実質的な初投稿ですが、2月の中旬になってしまいました。ツイッターが便利ですし仕方が無いですね。

為替市場は年明けからアメリカドル安傾向が続いていますが、株式市場ほどは乱高下していない様子です。アメリカの長期金利の上昇が、市場を動かしている雰囲気ですが、明確な方向感があるかと言われると難しいところ。ユーロドルの動きが一段落していることからも、しばらくはボラティリティの少ない相場に戻ることになりそうです。

 

 

カナダで失業率が発表されました。

・カナダ失業率(2018年1月)  5.9%(前月比 +0.1)

なんてことのない数値ですが、少し気になったことがあるので、掘り進めてみます。

 

 

カナダの経済指標を見ていきますと、

 

・失業率 5.9%

 中長期で見て下落傾向→横ばい

 

・GDP成長率 0.9%

 最悪期は脱して、低成長ながら安定

 

・貿易収支 ー3185 百万カナダドル

 かなり悪い

 

・小売売上(前年同期比) 6.5%

 かなり順調

 

・貯蓄率 2.6%

 ここ数年は4%台で推移してきたものが足下で急悪化中

 

・GDPに対する民間債務 266%(2016年)

 世界最悪水準

 

・GDPに対する個人債務 100%

 かなり悪い

 

とこんな感じです。

カナダは、2014年に資源価格急落によって経済が悪化しましたが、その後資源価格がやや上昇したことで、経済も回復しています。上記の経済指標を見る限り、その後は個人消費の成長による経済の回復のようです。特徴的なのは世界最悪水準の債務です。世界的な低金利から、企業の借り入れが増加したほか、個人では都市部を中心に住宅価格が急上昇し住宅ローンが増加しました。(カナダの住宅価格は2017年中旬辺りでピークを見せ、足下では安定中と思われます。)

 

順番からいくと、住宅価格が上昇し、資産価格の増大から個人消費が増加。しかし所得がそこまで増えていないため、貯蓄が減少し、債務が増大。つまり、このままの状態は続かないよね!といったところです。

さらにこの状況から足下で金利が上昇中、「ここから失業率が上昇し始めたらまずいなぁ」と思っていたところで上記の失業率の悪化が発表されたということです。

失業率は(季節要因などのため)上下する数値のため、単月で悪化したところで特に問題は無いでしょう。しかし、カナダの経済状況を考えますと、この値をより長期で監視していく必要はありそうです。

 

 

2月になって言うことではないですが、今年のテーマは「経済危機との距離感」です。リーマンショックから10年目を迎え、そろそろ次の経済危機が気になるところです。しかし、足下では世界経済は堅調、一部バブルの懸念はありますが、基本的には良好な経済環境と思えます。次の経済危機は、正直まだ2年は先だと思っているのですが、先日の株価急落など、少しずつ変化の兆しは現れているようです。

そして、その変化の最先端を行っているのが、今回記事にしたカナダ経済になります。世界的な低金利から生まれた債務こそが、次の経済危機を作る爆弾そのものです。世界最大の爆弾を持つカナダ経済からしばらくは目を離せなくなりそうです。

 

 

| コラム | 11:38 | comments(0) | trackbacks(0) |

実質実効為替レート2017年12月

2017年12月の実質実効為替レートです。
    2017.12   2017.6比
・ アジア・オセアニア
   日本円 【JPY】       72.6 -5.1%
   オーストラリアドル 【AUD】 106.3 -0.7%
   ニュージーランドドル 【NZD】 105.8 -5.5%
   中国人民元 【CNY】 124.2 2.3%
  
・ ヨーロッパ・その他
   ユーロ 【EUR】 95.1 2.9%
   イギリスポンド 【GBP】 86.3 2.0%
   ノルウェークローネ 【NOK】 87.1 -2.6%
   ロシアルーブル 【RUB】 106.3 -5.4%
   ポーランドズロチ 【PLN】 102.3 2.0%
   トルコリラ 【TRY】 87.8 -7.9%
   南アフリカランド 【ZAR】 86.5 -3.6%
 
・ 北アメリカ・中南米
   アメリカドル 【USA】 101.8 -2.8%
   カナダドル 【CAD】 95.9 2.9%
   メキシコペソ 【MXN】 79.4 -4.2%
   ブラジルレアル 【BRL】 98.5 -2.0%
 
データ期間 1994年1月〜
データ期間中の平均値を100とする。
元データはBIS国際決済銀行から。

 

 

2017年後半の各国通貨の値動きですが、年前半同様10%超える動きがなく、小幅な値動きになりました。

上昇した通貨では、ユーロ・イギリスポンド・ポーランドズロチとヨーロッパの工業国が並び、この地域の産業の回復が確認できます。その他では中国人民元・カナダが上昇しています。最も上昇した、ユーロとカナダでも上昇幅が2.9%とかなりの小幅な値動きになったのが特徴的です。

下落した通貨ではトルコリラの7.9%が目立ちますが、極端に大きな数値ではありません。その後にニュージーランドドル・ロシアルーブルと資源国・新興国通貨が続き、やや意外な日本円が下落幅4位となりました。年前半と同じくアメリカドルが下落した中で、新興国・資源国通貨が総じて弱い動きになっていたようです。

 

 

 

 

| 実質実効為替レート | 12:47 | comments(0) | trackbacks(0) |

為替予想2018前半 まとめ

為替予想2018 まとめ

 

★強い   ・日本円         ・ユーロ

★やや強い ・オーストラリアドル   ・ロシアルーブル    ・ポーランドズロチ

★中立   ・イギリスポンド     ・南アフリカランド   ・ブラジルレアル

★やや弱い ・中国人民元       ・アメリカドル     ・カナダドル     ・メキシコペソ

★弱い   ・ニュージーランドドル  ・ノルウェークローネ  ・トルコリラ

 

★想定環境

・原油価格はWTI1バレル = 55ドル〜65ドル

・資源価格は基本的にやや上昇、貴金属はパラジウムを除きやや弱めな動き。

・アメリカの利上げ、バランスシートの縮小はおおむね順調に進む。

・ECBは利上げはできずも、国債の買取は減少。

・世界経済は堅調・貿易量が増加。失業率が減少。債務は増加。

・一部バブルの懸念があった地域では、住宅価格は下落傾向に。

・株価も世界的に上昇も、2017年ほどの上昇幅にはならず。

・インフレ率が世界的に上昇傾向を示す。

 

基本的に2017年後半からの経済が続いていき、非連続的なことは起こりにくいかなと考えます。主要国の金融政策が緊縮的になるのが気になるところですが、アメリカドルの上昇はないとみています。為替全体で見ても、値幅が少ない傾向が続きそうです。

 

★トレードアイデア

・EUR/USD  L

・EUR/TRY  L

・EUR/NOK  L

・MXN/JPY  S

・CAD/JPY  S

・USD/RUB  S

・AUD/NZD  L

 

たくさんか書きましたが、迷いがあると思ってください。ユーロ・日本円の上昇を軸として、下落しそうな通貨を組み合わせていくのがベターかと思います。そのほか強くなりそうな資源国をロングで持ってみたいところです。キャリートレードが強ます場合は要注意です。

 

 

 

2017年も 「KAWASE BIIKI」 をご覧いただきありがとうございました。

良いお年をお迎えください。

 

| 為替予想 2018前 | 20:44 | comments(0) | trackbacks(0) |

ブラジルレアル(BRL) 為替予想 2018前半

ブラジルレアル【BRL】

★総評 中立

2016年は大きな上昇も、2017年は小幅な動きになったブラジルレアルは中立予想とします。全体的にそれほど悪くはないけれど、強調できる材料もなく、資源価格次第の印象です。

 

★経済 マクロ指標など

ブラジル経済は回復基調にあります。2015年から8期連続でマイナス成長でしたが、2017年は1Qからプラス成長に回復、その後も低いながらも安定した成長を維持しています。失業率も12%台と高い水準ながら低下傾向を見せていて、これからの改善を期待させます。鉄鉱石や石炭などの資源価格の上昇が主な成長理由で、工場生産や内需主導の成長は遅れているようです。貿易指標を見ると、貿易収支は黒字、経常収支は赤字になっています。経常収支の赤字は縮小してきていて、利払いのための支出のため、これから金利が引き下がれば改善の余地はあります。

債務系の指標では、個人・民間セクターともにそれほどの水準でなく、差し迫った問題はないようです。民間セクターの債務が減少傾向にあるのが、ブラジル経済の特徴と思われます。

 

★金融政策

高インフレ対策として、緊縮的な金融政策を敷いているブラジル中銀ですが、ここにきて政策金利を急低下させています。インフレ率が2%台になっているため、これからも利下げが進んでいくものと考えられます。

 

★トレードアイデア

・USD/BRL S

特にポジションを持つべき水準とは思えませんが、持つならば上方向で見ていきたいところです。地理的な特異性が魅力で、アメリカドルを売りで持つ場合に、通貨を分散させたいのであれば選択肢に入れていもいいと思います。資源価格の動向は当然注目材料です。

 

| 為替予想 2018前 | 23:06 | comments(0) | trackbacks(0) |

メキシコペソ(MXN) 為替予想2018前半

メキシコペソ【MXN】

★総評 やや弱い

2016年に急落し、2017年前半は上昇したメキシコペソですが、2018年は下落を予想します。水準が割高のほか、原油価格が頭打ちしているため、弱めな動きになると想定されます。

 

★経済・マクロ指標など

メキシコ経済は停滞中です。失業率は低下傾向なのですが、経済成長率がマイナスになるなど厳しい経済状況となっています。工業生産・小売売上が前年同期比でマイナスになるなど広範囲で弱い経済状況になっているようです。原油生産が減少傾向で、直近はさらに下げ幅を拡大してきているため、メキシコの産油国としての地位は低くなっています。貿易指標では、貿易収支は単月で黒字になる月はありますが、全体的に見て赤字、経常収支も同様な傾向です。赤字幅はそこそこの大きさといったところでしょうか。アメリカとの通商関係がギクシャクしているように見えますが、輸出・輸入ともに過去最高額を記録していて、貿易の停滞はなさそうです。

債務を見ますと、個人・民間セクターともに水準的にはそこまで大きくはないのですが、急拡大していることが気がかりです。ここ数年の新興国の金融環境の典型的な特徴になります。

 

★金融政策

急激な為替の下落に対応するため、金融政策はかなり緊縮的なものを採用していました。インフレ率が高止まりしているため、しばらくは政策金利もこの水準で推移することも考えられます。

 

★トレードアイデア

・EUR/MXN L

・MXN/JPY S

下方向で見ていく通貨のため、ファンダメンタルズが良さそうな主要国通貨との相性が良さそうです。カナダドルと似た感じになります。2016年にすでに大きく下落してしまったため、下げる余地はそれほど大きくはないかもしれません。

 

 

| 為替予想 2018前 | 16:03 | comments(0) | trackbacks(0) |
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